Clean Water Mechanismの概念

私たちの問題意識

なにが「きれいな水」の妨げになっているのか?

現状

現状
  • 1997年の京都議定書で国際的な温暖化対策の枠組みが決められ、さらに対策実施の為のCDM*やJCM**などのメカニズムが策定され、現在に至っています。
  • 近年では国連によるSDGsの提唱の普及により、持続性ある開発への理解と啓蒙が広がりました。
  • 17の目標の中には、直接水に関する項目が2つあります。
  • 「6:きれいな水と衛生」
  • 「14:水の中の生態系保全」
*CDM: クリーン開発メカニズム
**JCM: 二国間クレジットメカニズム

森を守るメカニズムも

森を守るメカニズムも
  • CDMの開発・発展の結果として他にREDD+のようなメカニズムも派生的に生み出されました。
  • REDD+は「経済的理由から森林を減らす」インセンティブに対して「森林を守り生活の糧を得る」インセンティブを生み出す仕組みです。
  • 森林の保護育成によって吸収される温暖化ガスを数値化し、そのトン数をカーボンクレジットに換算する事が可能です。

しかし、「きれいな水」にメカニズムはありません。

水は地球一の温暖化ガス発生源

  • 我々が放出する汚水は自然が分解できなくなれば汚泥を蓄積し、その汚泥は大量の温暖化ガスを発生させます。
  • 逆に十分に好気的な水環境であれば、水は多くの有機物と二酸化炭素を動植物として固定化します。
森を守るメカニズムも

海は最も大きな温暖化ガスの発生源

海は最も大きな温暖化ガスの発生源
  • 一方で水は温暖化ガスの発生源であり、また吸収源でもあります。
  • 900億トンある「海の呼吸」の収支には、70億トンあまりの人間活動由来の温暖化ガスを吸収する大きなポテンシャルがあります。
  • 我々は汚れた水を常に海に排出していますが、海の自浄作用はそれに追いつけません。
  • また、海のバイオマス総量が減り続けています。

温暖化対策と生物多様性保護の両面において重要な「水環境の改善」に、より多くの対策が取られる必要があると考えます。

直ぐにできるアクションは何か 私たちの提言

Clean not Clear,is Green

Clean not Clear,is Green
  • 我々が目指すのは「Clean Water」であり、決して「Clear Water」ではありません。
  • 2000年、有明海では海苔の大凶作に見舞われました。
  • 原因は汚染(富栄養化)ではなく、貧栄養化でした。
  • その対策として、今では季節によって下水処理の能力を落とす「能動的栄養塩類管理運転」が行われています。
  • Clear (透明) な水が環境に良い水という訳ではないのです。
  • その意味では「『水質』を再定義しよう」という試みでもあります。
  • 我々の生存を支えている自然環境と生態系をより豊かな状態で次世代に引き継ぐための活動です。
  • Clean not Clear, is Green!!

Clean Water の定義

  • 問題は我々人類が活動を通して水に混ぜ合わせた有機物を処理するのに必要な酸素が足りていないということなのです。
  • 自然にほんの少しの手助けをすれば、壊れかけた自然の循環の力をもとに戻すことができます。
森を守るメカニズムも

どんな行動を起こすか

  • 「きれいな水」の温暖化対策への好影響を定量化し、CDM・JCMなどの開発メカニズムにおける『方法論(Methodology)』を開発し、登録を試みます。
  • 「きれいな水へのインセンティブ」が社会的に実装されることで、多くの国や企業又は個人が水環境の改善をとおして、世界の温暖化対策に大きく貢献できるようになります。
どんな行動を起こすか

【参考】方法論 (Methodology) とは

  • CDM等の各メカニズムには登録された方法論があり、プロジェクト開発者はその方法論を選択し、登録することになります。
  • GHG削減効果の計算方法・基準などがそこに規定されています。
  • 新規に方法論を開発するには膨大な時間と手間がかかるため、新規の方法論が作られるのは稀です。
  • つまり現実的にはメカニズムを利用した活動は、方法論に制約されていると言えます。
実際にCDMに登録されている方法論の例と、ドキュメントのページです。

こんな未来を将来世代に

  • 前項で定義したとおり、我々の云う「きれいな水」とは謂わば「自然にとって良い水」です。
  • 例えばですが、富栄養化された水でも、最小のエネルギーで好気化する事ができれば分解が進み、生物にとって住みやすい環境を作ります。
  • もし、我々の取り組みが広く社会実装されてゆけば、「人口密集地域の海ほど自然豊かな海になる」、そんな世界が実現されます。
こんな未来を将来世代に

こんなビジネスが出現する

  • 「きれいな水環境」を作り出すことによって創出したカーボンクレジットを国や企業に販売する「きれいな水」の専門企業が創出できるかもしれません。
  • ビジネス界の優れた技術、人材、商品、知財、あらゆるリソースが水環境の保全に活用されるようになります。
こんなビジネスが出現する

考えられる方法論

現在構想されているいくつかの方法論のアイデアを例として紹介します

方法論-1:再放流水質の向上

方法論-1:再放流水質の向上
  • 現在、法定制限値がありますが、逆に言えばそれ以上に排水を「きれいな水」にするインセンティブは全くありません。
  • 排出規制値を下回る排水にするインセンティブを作ります。
  • そのためにはBOD、COD、リン、窒素などの数値をより低く下げたときの温暖化ガス抑制効果を科学的に検証する必要があります。
  • これにより理論上、キャップ・アンド・トレードの対象とすることが可能になります。
  • CO2排出量制限値を超えた事業者に対して、多く削減した事業者が余剰削減分を譲渡することが出来る。

方法論ー2:高い溶存酸素(D/O)の放流水

  • 単独ではなく方法論-1(再放流水質の向上)と組み合わされる為の方法論です。
  • BOD/COD等で表される有機物が多くても十分な酸素があれば好気性菌による分解が可能です。
  • 好気的環境になればメタンガスの発生を抑制することに繋がり、温暖化ガス削減に大きく寄与することが出来ます。
  • 水質規制には汚染物質の量を下げさせる「引き算」の値はありますが、「足し算」の値はありません。
  • 水質基準にD/O値(溶存酸素値)があれば、排水に酸素を添加し、放出するインセンティブになり得ます。
  • また、近年水を好気的環境にするための多くの高効率エアレーション技術が開発されていますが、その能力を客観的に評価する基準として、気体を水の中に閉じ込める効率(GTE:Gas Transfer Efficiency)を定義する必要があります。

【参考】 Gas Transfer Efficiency (GTE)について

  • 排水中のD/Oを高く維持するプロジェクト計画を立てた場合、そのエアレーション設備の性能を正しく評価する必要があります。
  • しかし、性能を評価する重要な指標であるGTEは世界的に計測のスタンダードが無く、正確にその性能を比較することが出来ません。

方法論-3:下水中継ポンプ場の好気環境化

方法論-3:下水中継ポンプ場の好気環境化
  • 現在、管精工業が一部実験中です(発表済み論文あり)。
  • 下水中継ポンプ場は全国に数千箇所あると言われています。
  • ポンプ場は夜間は流れが無くなり、その間に大量の亜酸化窒素、メタン、硫化水素(温暖化ガス未登録)を発生させます。
  • 特に硫化水素は管路など施設を腐食させ老朽化させます。
  • 夜間にポンプ場を高密度ナノバブルなどで好気化させることで温暖化ガスの発生を抑えることができます。
  • その上、ポンプ場施設の高寿命化や処理施設の負担軽減などのコスト削減効果もあるため、商業ベースのインセンティブとして成立させやすい利点があります。

方法論-4:藻類による二酸化炭素の固定化

方法論-3:下水中継ポンプ場の好気環境化
  • 成長の過程でCO2を吸収し、酸素を発生させる藻類は排水中の有機物を固定化する上でも非常に有効な手段と言えます。
  • 藻類から石油燃料を抽出する研究が進んでいますが、投資コストが高い上、商業的商業例が今はないため、いまは対象として考えていません。
  • この方法論の利点はすでに産出してしまった産業由来の二酸化炭素を固定化して利用できる点、そして効率良く水中の窒素とリンを分離回収出来る点です。
  • 最終的な排水が貧酸素にならないよう、何らかのエアレーションでD/O値を上げるなどの留意も必要になると思います。

方法論ー5:ビオトープ

方法論ー5:ビオトープ
  • ビオトープの利点は最終的な排水を自然の力で更に浄化できることと、生物多様性の保護につながる点です。
  • 有機物の多い処理済み排水を利用し、生物として温暖化ガスを固定化することができます。
  • 下水処理場にビオトープを隣接させる試みも広がりつつあります。
  • また、欠点は、嫌気環境化によりメタンの発生が有り得る点です。
  • ビオトーブはメタンの発生源でもあるため、高密度ナノバブルなどの高効率エアレーションで水を好気化させることができます。
  • 温暖化ガス吸収量は限定的になる可能性があるが、生物多様性保護に効果が高いため、生産活動とのトレードオフの追加的メカニズムも検討の余地があると考えます。

方法論ー6:環境浄化・環境再生

  • 近年、極省電力で稼働する高密度ナノバブル発生装置などが普及し始めています。
  • それらの高効率エアレーション技術を使い、これまで皇居、八景島、諏訪湖などで環境浄化・環境再生の実証実験が行われ、大きな成果が出ています。
  • これらの活動は自然環境保全としては価値があっても、現状、商業的には全くお金を生み出しません。
  • こうした活動の効果が研究され定量的に評価されれば、国や企業のカーボン・オフセット事業として実施・継続する道が開かれます。

【参考】 ダムと水力発電開発の持つ可能性

【参考】 ダムと水力発電開発の持つ可能性
  • 元国土交通省河川局長の竹村公太郎氏が中心となり、「全てのダムを発電所に」という取り組みを呼びかけています。
  • 高低差の激しい日本は水の位置エネルギーの宝庫です。
  • ダムの殆どは治水利水ダムで、発電設備はありませんが、全てのダムに発電設備をつければ(技術的には可能)日本の低すぎるエネルギー自給率及びエネルギー安全保障を改善強化することが出来るというアイデアです。
  • 小規模水力発電は基本的に揚水式ではありません。
  • 即ちこうした試みが実現すれば、夜間に沢山の余剰電力が生じます。
  • 藻類の光合成が止まり水中が貧酸素になる夜の時間帯に余剰電力を使い水環境を好気化させ、それがカーボンクレジットを生み出せば、水環境だけでなく、商業的・経済的にも好循環が生まれます。

方法論-7:水田灌漑水の好気化

  • 温暖化係数(GWP)が二酸化炭素の20倍を超えるメタンガスの全発生量のうち、水田は11%を発生させています。
  • これは嫌気環境で繁殖するメタン生成菌によるものです。
  • 最新の研究では土壌中の好気性細菌類の多様性が収穫の質を大きく左右することが解っています。
  • 水田の水源を好気環境にすることで、メタンガスの発生を大幅に下げるだけでなく、生物多様性の保護にも大きく貢献することができます。
  • また、収量の増加などの経済的効果も見込むことができます。
  • 再生可能エネルギーや、余剰電力などの有効利用で運用することも可能です。
  • 灌漑の利水ダムなどの水源を好気環境にすることで最小の設備投資で広範囲に実施することもできます。
  • 現在、新潟県において高密度ナノバブルを使った実証実験が予定されています

方法論ー8:カーボンオフセット養殖

方法論ー8:カーボンオフセット養殖
  • 人類にとって安定的な蛋白源を確保することはとても重要です。
  • しかし畜産(特に牛や羊)は膨大な温暖化ガスを発生させるだけでなく、餌となる牧草の確保のため多くの森林が伐採されています。
  • また大量の水を必要とし、蓄養ー加工のプロセスで大量の汚水を放出します。
  • 牡蠣は環境負荷が非常に低い上、水中の有機物を凝集固定化してくれます。
  • また、海水中の二酸化炭素をカルシウムと合成して殻を作ることで大量に固定化します。
  • 蛋白源を畜産物から牡蠣に置き換えることで大量に温暖化ガスを減らすことが出来ます。
  • 持続的にカキ養殖を拡大するにはカキ養殖に適した水環境を作ることが大事です
    (例):
    • 鉄鋼スラグの利用や森林整備、漁礁の構築
    • 好気的水環境づくり(赤潮の防止と成長の促進)
  • 畜産などの環境負荷をカキ養殖などへの支出でオフセットする制度があれば、より環境負荷の低い蛋白源の消費へと、舵を切ることが出来るはずです。

方法論-9: 難分解性漂流ゴミの回収

  • いわゆる「ビーチクリーニング」活動等ですが、Clean Water Mechanism 啓蒙のためのBonding Activityとしても非常に有効だと考えられます。
  • プラスチックは極めて長い時間をかけて、最終的には微生物により分解されます。
  • また、最新の研究ではポリエチレンが劣化する過程でメタンガスが発生する事が解ってきました。
  • プラスチックごみの分解に要する微生物リソースの総量を化学的に推計することで、本来他の有機物の分解に使われるリソースを算出し、回収による貢献を数値化できます。

皆さまへのお願い

Clean Water Mechanism 実現のために

Clean Water Mechanism 実現のために
  • Clean Water Initiative は自分たちに手柄を集める為の集団ではありません。
  • 「Clean Water Mechanismの社会実装」というミッションに特化集中する集まりです。
  • 日本だけでなく世界を活動範囲とし、国内外問わず、ありとあらゆる組織・個人と協力しながらリソースを共有し、社会に成果を還元します。

賛同者名簿

  • 沖野 外輝夫:信州大学名誉教授
  • 山本 民次:広島大学名誉教授
  • 風間 ふたば:山梨大学教授
  • 亀井 樹:山梨大学助教授
  • 石川 智士:東海大学教授
  • 橋本 淳司:アクアスフィア水教育研究所
  • 中川 昌美:九州大学教授,コロラド鉱山大学教授
  • 松井 三郎:京都大学名誉教授
  • 眞家 永光:北里大学
  • 横山 和成:㈱DGCテクノロジー
  • 大平 猛:マイクロナノバブル学会理事長
  • 廣野 育生:東京海洋大学教授
賛同者名簿は表明順・敬称略で記載させております。
発起人: 安斎聡

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